コーチング

コーチングの歴史

Coaching History

時代によって言葉のイメージや定義は変わります。「コーチ」と聞くと「何かを教えてくれる人」というイメージが浮かぶかもしれませんが、本当はコーチングとはとても多面的で、多層的な意味と役割があります。ぜひ歴史という時間の流れを紐解きながら、コーチングの歴史に触れることであなたの人生に「どう役立てられるか?」のヒントを見つけてみてください。

コーチングの起源

コーチ(Coach)は、英語で「馬車」のこと。馬車は、出発点から目的地まで人を運ぶ輸送手段ですね。

元々は中世のハンガリーに合った町コチ(Kocs)から由来していると言われています。15世紀にこの町で作られた〈馬に引かせる乗り物〉が、当時それまでにないような〈快適で粋な乗り物〉としてヨーロッパ全土に広まります。やがてこの乗り物が、作った町の名前で呼ばれるようになり「コチ」は短時間で旅をする洗練された高級な移動手段となったそうです。

ここからコーチングは、人を出発点から目的地まで連れていく手段であると同時に短時間で、洗練された、旅の手段という意味で使われています。

コーチングの歴史概要

教育分野において、コーチングという概念は「教師が生徒に知識を伝え導く」という考えが始まりでした。そのため特定の能力を高めるために活用されてきた歴史があります。ボイスコーチ、演技コーチ、スポーツコーチなどが挙げられます。これらは個人の行動をよく「観察」し、指導を受ける者に対して特定の背景や状況の中で「実技を向上させるヒントや助言」を与えるのが役割でした。つまりは〈人の行動面の能力進歩〉が目的でした。(行動レベル)

現在のコーチングは「潜在能力や才能を最大に引き出す」ことを前提に、ビジネスにおける能力開発に活用されたり(能力レベル)、さらには「どのようなライフデザインを作っていくか?」という人生設計に活用されるとともに(信念・価値観レベル)、「どのように生きるか?」という人としてのあり方(アイデンティティレベル)にまで、個人の人生を豊かにすることを目的とした方法論として発展してきています。

コーチングの流れ

15世紀にコーチングの語源と言われる言葉「コチ」が誕生してから、私たちがイメージするコーチングの形になってきたのは20世紀に入ってからでした。

スポーツ分野から

当時スポーツ分野で使われる「コーチ」とはアスリートを指導できる指導者/先生であるという位置付けでしたが、あるテニスコーチが、選手の意欲を引き出し、メンタルサポートもしながら成果を出させていく方法論を確立させ、その存在のことを「コーチ」として紹介します。これが最初のコーチングの転換点と言われています。

心理学で〈人間の潜在能力〉が注目

1960年代から人間性心理学・人間性回復運動が起き始めたと同時に、西洋と東洋の哲学を融合したワークショップがアメリカで活発になります。

そこから70年代は「人生をどのように生きるか?」ということに関するコースがスタートしたり、「気付き」などの「内面」に焦点が当てられるトレーニングが始まりました。

ライフプラニング&自己啓発として

そして80年代以降、コーチングの概念が広がり企業の業績向上や個人の能力開発に役立つ方法が開発されてきました。

ビジネス業界へ

90年代に入るとコーチングはビジネスの世界でより広く活用され始めると共に、アメリカのみならずヨーロッパに広がっていきました。クライアント自身に焦点をあて、その「潜在能力・可能性を最大限に引き出すことを重視する」という現在につながるコーチングの形になり始めたのもビジネスマネジメント分野でコーチングが導入された頃からと言われています。

教育・医療業界へ

2000年代以降、日本のビジネス業界で広まり始めます。またアメリカではイエール大学やハーバード大学などで「幸福学」や「コーチング」の授業が始まり人気を博します。

個人の〈人生のあり方〉の探求に

現在ライフスタイルの変化、人生100年時代へのマインドセットの変容、自身の能力開発向上、メンタルヘルスに関する興味や関心とともに、個人の人生におけるコーチングの需要が増えてきています。

コーチング年表

(*人名にブルーラインを引いています)

1962年東&西洋哲学の融合

この頃、心理学の世界では「自己実現」などの人間の肯定的な側面に研究の焦点を当てた新しい心理学の流れが始まり(人間性心理学)、同時に「人間性回復運動」が活発になってきた頃でした。その拠点と言えるのがアメリカ・サンフランシスコにあるエサレン研究所でした。ここでは西洋と東洋の哲学を融合した経験的なワークショップが開催されていました。この研究所で教鞭を振っていたのは後に心理学分野で著名な功績を残していく下記の人々でした。

  • アブラハム・マズロー(心理学者/人間性心理学の生みの親)
  • カール・ロジャース(臨床心理学者/Client-Centered Therapyを創始)
  • バラス・フレデリック・スキナー(心理学者/行動分析学の創始者)
  • フリッツ・パールズ(精神科医/ゲシュタルト療法を創設)
  • ヴァージニア・サティア(家族療法家)
  • グレゴリー・ベイトソン(人類学者・社会科学者・言語学者)
  • リチャード・フィリップス・ファインマン(理論物理学者/ノーベル物理学賞受賞)
  • モーシェ・フェルデンクライス(物理学者/フェルデンクライスメソッド創始者)
  • ジョセフ・キャンベル(神話学者/英雄の旅・ヒーローズジャーニー)
  • カルロス・カスタネダ(人類学者)
  • フリッチョフ・カプラ(物理学者・システム理論家/タオ自然学)
  • ディーパック・チョプラ(作家)

1971年 人間性心理学の台頭

ワーナー・エアハード(コーチング史の中で2番目に大きな影響を及ぼしたと言われている人物)はエサレン研究所に「EST」という「気づき」のトレーニング・プログラムを設立します。コーチングという用語も紹介し、グループを対象に1対1となって互いに「気づき」を通した自己啓発トレーニング・プログラムを行いました。参加者は100万人にも上ったと言われています。

1974年「心の中の会話」の重要性

現在私たちが知る「コーチング」が始まる転換点とされているのが、この年に出版された書籍「インナーゲーム」ティモシー・ガルウェイであると言われています。彼はハーバード大学のテニスチーム兼エアハードのテニスコーチでした。

この本の中で、テニスでは2人の敵と対峙していること、その2人とは外にいる敵(相手)と内なる敵(心の中の会話)であるとされています。ガルウェイがテニスコーチとして理解したことは「細かい手順の指示やアドバイスよりも、相手が自身のメンタルプロセスに注意を向ける手助けをする方が効果的である」ということでした。そこで彼はクライアントが自分で自分の邪魔をしないようにする方法を開発しました。それがコーチング始まりの転換点であり、彼はこの頃興隆していた人間性心理学や東洋思想、スポーツ心理学、無意識のプログラミングといったアイデイから得たものをまとめ上げたと言われています。

1976年 NLP創設

エサレン研究所で教鞭を取っていたフリッツ・パールズ(精神科医/ゲシュタルト療法を創設)、ヴァージニア・サティア(家族療法家)、グレゴリー・ベイトソン(人類学者・社会科学者・言語学者)や催眠療法で有名なミルトン・エリクソンを対象に研究し「卓越したスキルのモデル化」を試みてNLPが始まったと言われています。

1988年コーチングの礎

トマス・レナードパーソナルコーチングの父と呼ばれ、コーチング分野の礎を築いた最大の貢献者と言われている人物)がプロの金融アドバイザーとして個人の相談に応じていたところ、金融に関してだけでなく「みな人生についても悩んでい」、ということを知ったことをきっかけに「Design Your Life」コースを、1989年には「College for Life Planing」コースをスタート。ライフプランニングにコーチングを活用しました。こうした活動の中で、コーチングの方法論が形成されはじめました

1990年代 ビジネスコーチングの拡大

1980年代後半から90年代にかけて、さまざまなコーチング団体が創設されます。また自己啓発の手段であったコーチングが、ビジネスへ活用されるようになり発展していきます。(IBMはコーチングを採用した最初の大企業とも。)この頃からクライアント自身に焦点をあて、その潜在能力・可能性を最大限に「引き出す」ことを重視するという現在につながるコーチングの形になり始めたと言われています。アメリカで、ビジネス業界に広まると同時にヨーロッパにも広がっていきました。

2000年代 日本へ

日本では、コーチングに関しての文献が増えたのが2000年代に入ってからでした。またアメリカではイエール大学やハーバード大学などで「幸福学」や「コーチング」の授業が始まり人気を博し始めます。

2010年代 世界で

  • ヨーロッパ企業の88%、イギリス企業の95%がコーチングを利用している
  • 世界のコーチの数は7万人
  • 200を超えるコーチ・トレーニング機関

コーチングの活用、コーチ、そしてトレーニング機関は増加の一途を辿っています。

現在のコーチング

海外

海外では、さまざまなコーチング団体やスクール、会社が開設。またイエール、ハーバードなど大学でも幸福学やコーチングの授業が行われており人気を博しています。

経験&実践をもとに始まり広まってきたコーチングも、現在は根拠に基づいた研究が進められており、ハーバードメディカルスクールでもサイエンス・コーチングとして扱われています。

日本

日本では2000年頃からコーチングに関する文献が増え、特にビジネス分野で顕著に増加しました。現在、スポーツやビジネスだけでなく医療・教育(子育て含む)分野でコーチングが広がっています。

社会的な変化が起こっている中で、これまで以上に「個人の幸福」について考える機会が増えてきている現代ではコーチングの「潜在能力や才能を最大に引き出す」というアプローチの方法と「Being/どう生きるか?」を問う姿勢(ライフコーチング)が個人の人生設計に活用され始めています。

まとめ

「コーチング」という言葉はさまざまな意味を含んでいる、というのが現状です。その中でもそのポイントは4つ。

⑴ コーチとは目的地まで連れていってくれる乗り物

コーチングの語源は、人を出発点から目的地まで、より快適に、より短時間で連れていく手段・乗り物(馬車=Coach)から来ています。

今で言うと、自動運転の車とも例えることができるかもしれません。目的地をセットしたら、そこまで快適に送り届けてくれるような、そんな役割を担うのがコーチングです。

⑵ 東洋哲学と西洋哲学の融合から始まった

コーチングの成り立ちで重要なのは、東洋哲学と西洋哲学の融合からスタートしているという点です。西洋哲学的な思考重視の考え方だけでなく、人を総合的にトータルでみようとする視点や精神・心といった東洋哲学思想とその実践を融合させて、コーチング手法が開発されてきました。そのため「答えを与える」のではなく「答えを引き出す」と言うアプローチ方法にも繋がるのです。

⑶ 原因追求から、実現の探究に移行した時代を経て

もう1つ大切なコーチングに関わる転換点は1970年代に起こった人間性心理学という新しい心理学の始まりに関連していることでした。それまでの心理学は病理研究(病気の研究)とその原因に重きが置かれていたと言われています。それがこの時代から「自己実現」など人間の肯定的な側面に焦点を当てる研究が始まりました。コーチングはまさにその流れを汲み、始まっています。

私たちもまだまだ「問題」や「原因」を追求することを前提としている部分はないでしょうか?それと同じだけ「実現したいこと」や「実現のための行動」を追求する。その方法を身に着けることをサポートしてくれるのがコーチングと言えます。

⑷ 現在のコーチング

現在、コーチングはアメリカ・ヨーロッパでは大学でも授業が行われいて人気を博し、ハーバードメディカルスクールでもサイエンス・コーチングとして根拠に基づいた研究が進められています。日本でも2000年頃にこの概念が入ってきてから企業に導入され、最近では個人の自己実現のためのコーチングニーズが高まってきています。

これからコーチングは時代の流れと共により活用されていくのではないでしょうか。あなたの人生にも役立てられるヒントが見つかったら幸いです。