多角的に捉えるとは、ひとつの出来事をさまざまな角度から見直すこと。
同じ出来事でも、どこから見るかによって意味が変わります。この記事では、心理学やコーチングの考え方をもとにした「誰の視点で?」「どの枠組みで?」「どこに焦点を当てて?」など物事を多角的に捉えるための52の視点をカタログのようにまとめてご紹介します。仕事や人間関係、キャリアの分岐点で悩んだとき、「別の見方」を見つけるヒントとして活用してみてください。
📖 この記事の使い方
うまくいかないとき、行き詰まりを感じるとき、私たちはたいてい「ひとつの見方」に囚われています。
「どうしてこんなことに?」「誰が悪いの?」「もう無理かもしれない」
そんなときに役立つのが「視点を増やす」という方法です。同じ出来事でも〈誰の立場で見るか〉〈どんな状態で見るか〉〈どこに焦点を当てるか〉によって、見える世界はまるで違って見えます。そうやってひとつの出来事をさまざまな角度から、多角的に捉えることでスムーズに悩みを解決できるようになったり、目標を実現しやすくする基礎力を身につけることができます。
この記事を読み進める際には、下記のように活用いただけるとより効果的です。
- いま気になっている出来事をひとつ思い浮かべる。
- 下の6つのカテゴリから、ピンとくるものを選ぶ。
- 各視点の説明と“問いかけ”を読んで、出来事を他の視点で捉えたらどう見えるか?を書き出してみる。
視点を増やすとは、選択肢を増やすこと。視点を増やすと、“多角的に捉える力”が育ちます。「正しさ」を探すより、気持ちが“ふっと楽になる感覚”を探してみてください。
多角的に捉える方法① 立ち位置を変える(4種類)
「誰の立場で見るか?」(知覚位置)により、同じ出来事も見え方の選択肢を増やすことができます。多角的に捉えることができると、その対処方法も大きく変わります。

#1 〈自分〉の立場からみる
自分の目線で体験を捉えることで、感情や本音に気づきやすい。
主語:私(I)
【問い】「私は本当はどう感じている?」
【用語】第1ポジション
#2 〈相手〉の立場からみる
相手の立場になって体験を想像することで、共感や理解が深まる。
主語:あなた(You)
【問い】「自分が相手の立場だったら、どう受け止める?どんな気持ちになる?」
【用語】第2ポジション
#3 〈第三者〉の立場からみる
少し距離を置いて客観的に眺める。冷静に整理できる。
主語:彼ら(They)
【問い】「関係のない第三者として見たら、どう見えるだろう?」
【用語】第3ポジション
#4 〈全体〉からみる
出来事を自分ごとにしつつ、さらに俯瞰して眺める。自分も相手も“関係の中の一部”。
主語:私たち(We)
【問い】「この関係がうまく回るには、何が必要だろう?」
【用語】第4ポジション
多角的に捉える方法② 状態を変える(8種類)
焦りや落ち込みのときは些細なことに反応しやすく、落ち着いていると困難にも冷静に対処できます。自分がどんな状態かは、物事の捉え方に大きく影響します。ここではより多角的に捉えることができるように、対極にある視点も含めご紹介します。
#5 〈落ち着いている〉状態でみる
エネルギーが満ち、安定していると視野が広がり、選択肢が見つかる。
【問い】「調子が良いときの私なら、どう考える?」
【用語】リソースフルな状態
#6 〈余裕がない〉状態でみる
疲れや焦り・不安で視野が狭まり、特定の選択に固執しやすい。
【問い】「今は余裕がないだけかも?」
【用語】アンリソースフルな状態
#7 〈没入〉した状態でみる
当事者として体験の中に入り込み、感情・感覚を臨場感高く感じる。
【問い】「この出来事の中で、私は何を感じていた?」
【用語】アソシエイトな状態
#8 〈客観的〉な状態でみる
体験を外側から観察し、少し離れて冷静に眺める。
【問い】「少し距離を置いたら、何がどのように見えてくる?」
【用語】ディソシエイトな状態
#9 〈一致感〉を感じている状態でみる
価値観と行動が一致している前提で捉える。
【問い】「これは私の“大切にしたいもの”と合っている?その通りに行動している?」
【用語】内的調和(一致)の状態
#10 〈ズレ〉を感じている状態でみる
考え・大切にしたいことと行動に不一致がある前提で見直す。
【問い】「どの行動に違和感を感じている?それはなぜ?」
【用語】内的不調和(不一致)な状態
#11 〈内面的一致〉を感じた状態でみる
内面(価値観・信念・行動)の調和に着目する。
【問い】「自分の中で、価値観、信念、行動は調和している?」
【用語】内的エコロジカルな状態
#12 〈外側に調和〉した状態でみる
人間関係・環境など外側との調和に着目する。
【問い】「周りの人間関係、環境とうまくやっていこうとするとしたら?」
【用語】外的エコロジカルな状態
多角的に捉える方法③ 意識の方向性を変える(10種類)
どこに意識を向けているかによって、思考のチャンネルが変わります。
内側・外側・時間・感覚──意識の焦点を動かすことで、多角的に捉える余白が生まれます。
#13 〈内面に意識〉が向いている状態でみる
自分の感情・思考・身体感覚に注意を向ける。
【問い】「今、私は何を感じ・何を考えている?」
【用語】ダウンタイムな状態
#14 〈外側に意識〉が向いている状態でみる
外の出来事・他者の反応に注意を向ける。
【問い】「今、何が起きている?相手はどう反応した?」
【用語】アップタイムな状態
#15 〈今に集中〉した状態でみる
“今この瞬間”に没頭する。
【問い】「今、何が見えて、何ができて、どう感じている?」
【用語】インタイムな状態
#16 〈時間軸を俯瞰〉した状態でみる
過去—現在—未来の流れを客観的に把握する。
【問い】「1か月後から見たら、これはどんな位置づけ?」
【用語】スルータイムな状態
#17 〈意識的〉な状態でみる
意図して注意を向け、選んで捉える。
【問い】「今、私は何に意識を向けている?」
【用語】意識的な状態
#18 〈無意識〉な状態でみる
自動反応で捉えてしまっている。
【問い】「つい反応してしまう癖や捉え方のパターンは?」
【用語】無意識的な状態
#19 〈ありのまま〉に観察する状態でみる
評価や解釈を外し、事実を観察する。
【問い】「今、実際に“起きていること”は何?」
【用語】自覚的な状態
#20 〈自身の概念〉世界観を通して観察する状態でみる
思い込み・固定観念というフィルター越しに見ている前提で観る。
【問い】「事実と解釈を混ぜていない?」
【用語】自分の世界に入り込んでいる状態
#21 〈言葉〉に焦点を当ててみる
相手の言葉そのもの・意味内容に注目する。
【問い】「相手は具体的に“何を”言った?」
【用語】言語に注目している状態
#22 〈非言語〉に焦点を当ててみる
声のトーン・リズム・間、表情、姿勢・動きなど非言語情報に注目する。
【問い】「声のトーンや表情、雰囲気はどうだった?」
【用語】非言語に注目している状態
多角的に捉える方法④ 使う五感を変える(5種類)
「見る」「聞く」「感じる」──五感を通して世界を受け取る私たち。
意識する感覚を変えるだけで、その体験の質が変わります。また「どの感覚を優先するか?」を意識するだけで、多角的に捉える思考の幅が広がります。
#23 〈視覚〉に意識を向けてみる
目で見た・想像した映像に注目する。
【問い】「何が見えていた?」
【用語】視覚にフォーカスしている状態
#24 〈聴覚〉に意識を向けてみる
”聴いたこと”言葉・音・声のトーンに注目する。
【問い】「どんな声や音が印象に残っている?」
【用語】聴覚にフォーカス
#25 〈身体感覚〉に意識を向けてみる
”感触””感じたこと”感触や感情の動きに注目する。
【問い】「体のどこにどんな感覚があった?」
【用語】身体感覚にフォーカス
#26 〈嗅覚〉に意識を向けてみる
匂いや空気感に注目する。
【問い】「どんな香りや空気の変化があった?」
【用語】嗅覚にフォーカス
#27 〈味覚〉に意識を向けてみる
体験を“味わう”比喩で捉えてみる。
【問い】「この経験は、どんな味がした?」
【用語】味覚にフォーカス
多角的に捉える方法⑤ 焦点を当てる対象を変える(5種類)
どんな“要素”に注目しているかで、出来事の意味が変わります。
たとえば環境・行動・信念など、注目する要素を少しずつ変えてみると、同じ出来事にも新しい見え方が生まれます。

#28 〈アイデンティティ〉に意識を向けてみる
“私はどんな人か”という自己認識に注目する。
【問い】「私はどんな自分でありたかった?」
【用語】アイデンティティにフォーカス
#29 〈信念や価値観〉に意識を向けてみる
何を前提としているか、何を信じているか、何を大切にしたいかという点に注目する。
【問い】「何を前提にしている?」「何を大切にしている?」
【用語】信念や価値観にフォーカス
#30 〈能力〉に意識を向けてみる
スキルや習慣的な考え方に注目する。
【問い】「どんな力を使っていた?」
【用語】能力にフォーカス
#31 〈行動〉に意識を向けてみる
自分の具体的な行動・振る舞いに注目する。
【問い】「私はどう動いていた?」
【用語】行動にフォーカス
#32 〈環境〉に意識を向けてみる
外的要因(場所・時間・人)に注目する。
【問い】「どんな環境が影響していた?」
【用語】環境にフォーカス
多角的に捉える方法⑥ 心理的枠組みを変える(20種類)
同じ出来事でも、どんな“フレーム(枠組み)”で見るかで物語は変わります。
多角的に捉えるためには、思考のレンズを交換するように柔軟に見方を選んでみましょう。
#33 〈実現〉からみる
「何を実現したいのか?(未来)」に焦点を当てる。
【問い】「私は何を実現したい?」
【用語】アウトカム・フレーム
#34 〈ミス〉からみる
間違い・ミス・欠点に焦点を当てる。
【問い】「何が問題だった?」
【用語】非難フレーム
#35 〈広範囲〉からみる
長期的・広範囲に焦点を当てる。
【問い】「長い目で見ると、どうだろう?」
【用語】エコロジー・フレーム
#36 〈自分〉からみる
他者・環境・未来を一切考慮せず、今の自分の利益・欲求だけに焦点を当てる。
【問い】「自分だけ良ければOKなら、どうしたい?」
【用語】自己中心フレーム
#37 〈もしも可能なら〉でみる
“あたかも可能である”前提で考える。
【問い】「もし可能だとしたら、どうなる?」
【用語】あたかもフレーム
#38 〈もしもダメなら〉でみる
“どうしようもない”前提で考える。
【問い】「もしも本当に無理だとしたら、何を手放す?」
【用語】あきらめフレーム
#39 〈そのままの言葉〉からみる
相手の言葉・トーン・ジェスチャーをそのまま繰り返し、要約する。
【問い】「今あなたは『◯◯』と言ったね?(確認すると何が見える?)」
【用語】バックトラック・フレーム
#40 〈言い換え〉からみる
別の表現に置き換えて意味を広げる・柔らかくする。
【問い】「別の言い方にすると、どう聞こえる?」
【用語】言い換えフレーム
#41 〈違う〉前提でみる
違いに焦点を当てる。
【問い】「重要な差は何?」
【用語】対照フレーム
#42 〈同じ〉前提でみる
共通点・変わっていない部分に焦点を当てる。
【問い】「変わらず大事なことは何?」
【用語】すべて同じフレーム
#43 〈学び〉前提からみる
すべての結果を“学びの材料”として捉える。
【問い】「次に活かせることは何?」
【用語】フィードバック・フレーム
#44 〈失敗〉前提でみる
望まない結果を“失敗”として捉える。
【問い】「失敗だと定義すると、何を改善する?」
【用語】失敗フレーム
#45 〈合意〉前提でみる
双方に有益で合意できる点に焦点を当てる。
【問い】「私たちが合意できることは何?」
【用語】合意フレーム
#46 〈争い〉前提でみる
自分の欲求の実現のみに焦点を当てる。
【問い】「勝つことだけを目的にしたら、どう動く?」
【用語】争いフレーム
#47 〈関連性〉を前提にみる
出来事同士のつながりに焦点を当てる。
【問い】「この出来事は何と関係している?」
【用語】関連性フレーム
#48 〈無関係〉を前提にみる
あえて関連を切り離して考える。
【問い】「これは他の出来事と無関係だとしたら、どう扱う?」
【用語】無関係フレーム
#49 〈いい〉前提からみる
Good(良いこと)&New(新しいこと)に焦点を当てる。
【問い】「どんないいこと・新しいことがあった?」
【用語】Good&Newフレーム
#50 〈悪い〉前提からみる
起きた事実の“負の側面”をあえて抽出する。
【問い】「どんなリスク・課題が見えてきた?」
【用語】Bad&Negativeフレーム
#51 〈完了〉前提からみる
終わらせたこと・終わらせるべきことに焦点を当てる。
【問い】「何を完了した?次に進むために何を終える?」
【用語】完了フレーム
#52 〈未完了〉前提からみる
まだ終わっていないこと・残タスクに焦点を当てる。
【問い】「何が未完了?最初の一歩は何?」
【用語】未完了フレーム
まとめ|視点を変えるとは、自分をゆるめ柔軟性を取り戻すこと
視点を増やすということは、“正しい答え”を増やすことではなく“自由に考えられる自分”を取り戻すことです。
物事を多角的に捉える力は、自分にも、相手にも、世界にもやさしくなれる力になります。行き詰まったときほどひとつの視点に留まらず、さっと別の角度から見つめ直してみてることで問題の糸口が見つかったり、思わぬ発見があると思います。
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